こんにちは、スタッフのA・Sです。
今日は「和算の侍(新潮文庫)」鳴海 風著 を紹介します。



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内容紹介(あらすじ)

天才算術家関孝和に師事し、葛藤する中で円理を究めた高弟建部賢弘(かたひろ)。


その苦闘の生涯を描く「円周率を計算した男」(歴史文学賞受賞)ほか、独学にして大酒飲みの奇才久留島義太(よしひろ)、算学者であり大名だった有馬頼徸(よるゆき)、百姓出身で孤高の算術家山口和(かず)など、江戸の天才数学者たちを主人公に、数奇な人生模様を情感溢れる筆致で描く、和算時代小説の傑作。『円周率を計算した男』改題。



著者紹介

鳴海 風(なるみふう)


新潟県生まれの小説家。学生時代より小説家を志す。1980年、日本電装(現デンソー)入社。1987年より新鷹会の勉強会に参加し、作家としてのキャリアを積む。平山諦著『和算の歴史』に出会ったことがきっかけで、和算を題材とした作品を手掛けるようになり、1992年に、和算家建部賢弘が主人公の短編『円周率を計算した男』で歴史文学賞を受賞。



書評・感想

和算とは、日本独自に発達した数学のことで、特に江戸時代後期には数学ブームとでもいうように、大いに発展したそうです。
 

ええっ、数学が題材?と少し不思議な感じでしたが、問題を解いたりする必要はもちろんありません。
当時の算術書の名前などが出てくるのですが、なんというのでしょうか、当然外国の言葉ではなく、美しい日本語の題がつけられてます。


算術の入門書である『塵劫記』。
算聖とも言われる、和算を大いに発展させた関孝和の『発微算法』。
他にも、円周率の計算方法が書かれた『算爼』。
『古今算法記』『求円周率術』など…


当時は算術書だけではなく、算額と言って、額や絵馬に和算の問題や解法を記してしたものがありました。


著者は機械工学を専攻し、会社では生産技術者として働いており、和算の研究大会に参加し、関孝和数学研究所の研究員にもなっています。そのため数学に明るく、本書でも現代の数学で表した式などまできちんとつけられています。

 
数学好きなら、現代の数学と比べてみる楽しみもありますし、数学は苦手、そんな式なんて見たってわからないよ、という方でも問題なく、明快な文章で書かれており、その理路整然としたあたりはやはり研究者ならではかな?と思うのですが、数式など全く理解出来なくても問題なく読めるのです。それどころか、江戸時代にこんなことまで研究されていたんだ、と感動さえ覚えます。


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そして、本書は和算が大きく関わっていますが、和算の研究書ではなく、和算というものに打ち込んだ、というかとりつかれたというか、、、和算とともに生きた人々の人生を、理路整然と、しかし趣き深く描いている、そんな小説となっています。


剣豪を主人公とした小説が、必ずしも読者が剣豪でなくても、自分が剣の達人になったかのように楽しめたり(そんなに剣豪とかいませんよね)推理小説が探偵でなくても、頭脳明晰な名探偵になったかのごとく楽しめたり(探偵もなかなかいませんよね)

 
知らない分野を、まるで自分も知っているかのように、自分も体験しているかのように楽しめるのが小説の醍醐味でもあるなら、この和算を題材にした小説は、まるで自分が算術家であるかのように楽しめます。


現代とは違う、想像以上に深く極められていた和算の世界。
しかし、そんな知識が全く無くても、小説として充分に楽しめるようになっています。 


本日も最後までお読みいただきありがとうございました。